夢日記ショートストーリー『夢迷人』~気狂い孝行~

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また今年もやってきた。

今日は年に一度の特別な日。そう、母の誕生日だ。

思えばこの25年間、私は親孝行らしき親孝行をしてこなかった。

子どもの頃から常に反抗的な態度を取り、大人になった今でも優しい言葉の一つもかけられず、冷たい態度ばかり取ってしまう。

これでは駄目だ、と何度も何度も優しい言葉をかけようと努力もしてきたが、そんな自分を想像しただけで気持ち悪くなってしまって、やっぱり無理だ。

素直になれる日がいつになるのか、考えただけで気が遠くなる。

そんな自分に失望することもしばしばである。

親不孝なエピソードにはまだまだ続きがある。

大学受験に失敗し、予備校で浪人生活を送ることとなり、多大な負担を掛けることとなった。

かろうじて大学に合格したものの、大学生に入ると、酒を覚えて頻繁に飲み歩いていた。

しまいには酒に溺れ、病院に運ばれることもあった。

大学で遊び過ぎたツケが回って、ありえないほどに単位を落とし、就活も全て失敗する始末。

仕方がないので、もう1年大学生活を延長することとなった。

気づけば随分と回り道をし、なかなか自立もせず、母に負担をかけっぱなしだった。

そんな私もようやく就職することができた。

しかし、喜ぶのもつかの間、働き始めて間もなく精神疾患に掛かり、たった2ヶ月で退職することになってしまった。

その後はフリーターとしてふらふらし、いまだに半分母を頼って生きている。

定職に就けないのなら、せめて結婚して孫の顔を見せてあげるのが親孝行なのかもしれない。

だが、神様のいたずらなのか、残念ながら私は同性愛者だ。

いわゆる「理想」とされている結婚もできなければ、子どももつくることができない。

母からしても、私はとんでもない親不孝者なのだろう。

ただ、私にとって現状を変えることはとても困難なことなのだ。

それでも、私はできることなら母に親孝行をしたいと考えている。

だからこそ、今日は特別な日なのだ。

この日のために、私はあれこれと思考を巡らし、準備してきた。

何か特別なプレゼントをあげよう、母が喜ぶものを。

ただ、フリーターの身分である以上、高価なものをあげるというわけにもいかない。

私の経済力で用意できる範囲で、母が喜んでくれそうなものがいい。

それはいったい何だろうか。

私は考えた。

考えて考えて、頭が破裂するのではないかと思うくらいに考えた。

デパートやショッピングモールに訪れては、ふさわしいプレゼントがないか、足がくたくたになるまで見て回った。

しかし、いくら歩き回っても、しっくりくるプレゼントは見つからなかった。

店を渡り歩いても時間と労力ばかり浪費してしまうと考えた私は、インターネットの力を借りることにした。

何か誕生日にふさわしいもの、母に送るのにふさわしいもの、お金があまりかからず、私にもプレゼントできるもの、そんな条件に当てはまるものはないだろうか。

毎日毎日、暇さえあればパソコンやスマートフォンの前に張り付いていた。

目が充血して痛みを感じるまで、調べに調べ尽くした。

しかし、残念ながら納得のいく答えは全く得られなかった。

なぜだ、精神も肉体もすり減らし、連日連夜探し回っているというのに、どうして答えが出てこないのか。

私はとうとう狂ってしまった。

今までのストレスから解放されたいと言わんばかりに体が勝手に動き、気づいたら家を飛び出して走り回っていた。

走りながら力の限り叫んだ。心の底から叫んだ。

私は冷静さをすっかり欠いていた。

すれ違う人は皆、驚いた顔をしていただろう。

得体の知れないものを見て、恐怖でおののいていたかもしれない。

だけど、それは私にとって、もうどうでもよかった。

人にどう思われようが、私は私だ。私は解放されたのだ。

その時だった。

頭に電流のような鋭い何かが走った。

それと同時に私は思った。

母の喜ぶものにこだわり過ぎていたのではないだろうか。

だから選択肢がなくなってしまったのではないだろうか。

こうなったら、私があげたいものをあげよう!

私はすぐさま家に帰り、準備に取り掛かった。

計画を立て、必要なものを揃えた。

今まで悩んでいたのが嘘であるかのように、スムーズに準備が進んでいった。

ついに母の誕生日がやってきた。

私は母に「少し部屋で待ってて!」と言い、一人台所へ向かった。

これからサプライズの始まりだ!

私は業務用のカレー鍋よりも大きな巨大鍋を手に取り、その中に油を注いだ。

コンロに火をつけ、油を熱した。

普段料理なんてろくにしない私にとって、油を熱することはそれなりにハードルが高いことだった。

正直、不安と恐怖でいっぱいだった。

それでも、母に喜んでもらいたい一心で、熱せられていく油と向き合った。

もうそろそろ、ちょうどいい頃合いだろう。

私は、躊躇なく油の中に投入した。水で溶いたから揚げ粉をまぶした子供用パジャマを。

油の中のパジャマはカラカラと清々しく心地よい音を立てて揚がっている。

その様子は見ていて気持ちがよかった。

カラカラと揚がっていくパジャマは、なんとも美味しそうだった。

油から取り出して見てみると、今まで見た揚げ物の中で一番光り輝いて見えた。

私は心底感動した。

(この感動を早く母に伝えたい!冷めないうちに早く持っていかなければ!!!)

そう思った私は、すぐさまそのこんがりと揚がったパジャマを手にし、母のもとへ向かった。

母はこれを見てどんな反応をするだろうか。

喜ぶだろうか・・・それとも落胆するだろうか・・・

笑顔で受け取ってくれるだろうか・・・眉をひそめるだろうか・・・

ついに母の前にプレゼントを渡す時が来た。

「はい、これ。誕生日おめでとう。」

私はそう言い放ち、母に最高傑作のパジャマ揚げを手渡した。

私は急に不安になった。本当にこんなもので喜んでくれるのかと。

私は逃げ出したい衝動を抑え、母の返事を待った。

緊張で私の体は震えていた。

次の瞬間、母が言葉を発した。

「わざわざ作ってくれたの?ありがとう!すごく嬉しい。」

それは心の底からの言葉だとわかった。

正真正銘、混じり気のない感謝であった。

私はこの時初めて、自分は生きていていいのだと思った。

ここで目が覚めた。

私は完全に狂っていた。

揚げたパジャマなどもらって、一体誰が喜ぶのだろうか。

喜ぶどころか、きっと困り果ててしまうだろう。

それでも夢の中の母は心の底から喜んでくれた。

どんな私でも喜んでくれる母を夢の中で作りだしていたのだ。

きっと私は、母に「存在しているだけで十分だよ」と言って欲しかったのかもしれない。

私は、母の無償の愛を求めていただけなのかもしれない。

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